MUSES ATTIC

人事戦略と人事制度の位置付けを考える

ここでは会社の戦略全体における人事戦略と人事制度の位置付けについて考えます。

 

 

会社によって「今何に困っているのか」は異なります。通常自社が困っている点がどうしても気になります。

例えば「商品・サービスの売れ行きがよくない」ことに困っていれば「どうすれば売れるのか」が気になります。

「商品・サービスはよく売れるが、人手が足りない」のであれば「どうすれば人手が集まるのか」が気になります。

このように困っている点が異なれば、気になる点も異なります。

この気になる点を解決するためには、一体どういうことについて検討すればよいのか、それを事業と人材という観点から考えていきます。

 

 

ここでは便宜上「事業目的」「事業戦略」「人材戦略」「人事戦略」という順で上位→下位の概念としていきます。

原則的には上位概念がしっかりと練られると課題が下位に移ります。上位概念が練られていないという問題を下位の課題で解決することはできません。事業戦略が練られていないという問題は、いくら人事戦略を練っても解決できないということです。

上位から下位の概念を図示すると下記のようになりますので、それぞれ概説していきます。御自社の問題が今どこにあるのかを整理・検討する枠組みとしてご参考頂けるとありがたいです。

※紛らわしいですが、ここではあくまで「練られていない」という問題を指しています。例えば「販売力が弱い」という事業戦略上の問題を「営業部員を徹底的に教育する」という人事戦略で解決することはできます。

 

 

 

 

 

事業目的

事業を行う目的であり、会社の存在意義です。

明文化されていなくても大抵、何らかの事業目的があるものです。

多くの会社では収益を得ることが暗黙のうちに目的とされています。

社会問題の解決や経営理念の実現を目的としている会社も多く見られます。

 

 

事業戦略

事業目的を成し遂げるための戦略です。

当社では事業戦略を「価値提供の戦略」と「販売・マーケティングの戦略」に分けて考えることを推奨しています。

 

 

価値提供の戦略

会社は製品・サービスという形で顧客に価値を提供しています。

顧客に価値を認められれば購入・利用されますが、価値が認められなければされません。要するに売れません。

価値が高ければ高い値段がつき、低ければ安価になります。

如何なる価値を提供するのかが、会社のアイデンティティであるとも言えます。

 

 

販売・マーケティングの戦略

どのような価値を提供する会社であっても、誰にもそのことを知られていなければ購入・利用されません。

必要としている顧客に如何に効果的に、提供する価値を伝え、購買意欲を高めるかが販売・マーケティングの戦略です。

 

 

外部環境・将来展望

事業戦略は外部環境の影響を大きく受けます。

猛暑が続けばエアコンが売れますが、冷夏だとあまり売れません。

高い価値を提供していたとしても競合他社に比べて大きく劣るようだと顧客には認められません。

将来の世の中を展望し、それを踏まえて事業戦略を立てることも重要です。

将来の顧客に価値を認められないのであれば、時間とともに事業が衰退することになります。

 

 

人材戦略

事業戦略を実行するリソース(人など)をどのように確保するのかという戦略です。

簡単にいうと、従業員が行うのか、それ以外の方法で行うのかということです。

まず「機能分担」を考え、次に「外注/内製」を考えるという流れで記載していますが、逆の順序で考える場合もあります。

 

 

機能分担の戦略

ここでは事業戦略を実行するための業務を「人が行うのか/人以外のものが行うのか」という観点から「機能分担」という言葉を用いています。

例えば飲食店に行くと注文を聞かれる代わりに食券を購入したり、最近ではタブレット端末で入力したりすることがあります。これは注文を取るという機能を人ではなく機械に置き換えています。

コストが抑えられる反面、店の高級感は損なわれ、またきめ細やかな対応ができませんので高級レストランなどでは馴染みにくいやり方です。

事業のあり方に合わせて、人か人以外かを考えなければなりません。それによって必要な人材と人数が変わります。

 

 

 

 

内製/外注の戦略

「人が行う」と決めた業務を社内の従業員が行うのか/外注するのかという観点で考えます。

検討の視点はいろいろありますが、会社のコアになる業務(高い価値を生み出す業務やノウハウが蓄積される業務など)は従業員が行い、コア以外の業務は外注するという考え方がよく見られます。

 

 

 

内部の所与の条件①

例えば、社内のある業務を外注した方が低コストで高品質だが、それによって多くの従業員の仕事がなくなる、という状況だとします。

その業務は何なのか、外注によって手が空いた従業員に別の仕事を提供できるかといったその会社の事情によって判断軸が異なるかもしれません。悩ましいものです。

反対に内製したくても適当な人がいないということもあります。このように人材戦略は現在の従業員の状況に大きく影響を受けます。

 

 

人事戦略

従業員が生み出す成果をどのようにして高めるかという戦略です。

 

 

組織のパフォーマンス(組織体制/組織風土)

組織のパフォーマンスを高めるという観点です。

ここでは組織をどのように設計し、誰をどこに配置するのかという組織体制面の戦略と組織やチームのモラール(士気)をいかに高めるかという風土面の戦略とを記載しています。

組織のリーダーを替えるとそれだけで業績が上がったり下がったり、ミスが増えたり減ったり、離職率が上がったり下がったりしますので重要な戦略です。

 

 

人材のパフォーマンス(人物像/採用/教育・育成/人事制度)

パフォーマンスの高い人をいかにして確保するかという戦略です。

どのような人を採用し、どのような人材へと育成するのかという観点は非常に重要です。

即戦力を採用すれば教育しなくてもよいかもしれません。しかし、大抵人件費が割高ですし、自分のやり方が確立している人は会社のやり方に合わず、期待通りの力を発揮できないかもしれません。

新卒・第二新卒を採用すると教育が必要です。一人前になる前に離職するリスクもありますが、会社の文化を浸透しやすいという側面もあります。

パフォーマンスを高めるためには人事制度や教育制度など、制度的に多人数に対する対応として考える部分と、従業員各人の個別の事情を勘案して個人別の対応として考える部分とがあります。

 

 

内部の所与の条件②

例えば、新たにシステムエンジニアを採用したとしても、社内に他にエンジニアが一人もいなければその人は孤立してしまってうまく力を発揮できないかもしれません。社内に一人しかエンジニアがいないと他から刺激を受けづらいのでその人の成長が鈍ってしまうかもしれません。

新卒を採用して育成したくても指導する人がいないので、即戦力を採用せざるを得ないということもあります。

個人の業績に合わせて給与や賞与に差をつけたいと考えても、既存の制度が全く業績に連動していなければ簡単には変えられません。急激に替えると皆が反発するかもしれません。間をとったような制度にならざるを得ないことも多々あります。このように人事戦略も社内の状況に大きく影響を受けます。

 

人事戦略・人事制度の位置付け

人事戦略はあくまで事業戦略を実現するための手段としての戦略であり、事業戦略上、いわゆる人事制度(等級制度、賃金制度、人事評価制度)は人材のパフォーマンスを高めるための人事戦略の一部として位置付けられます。

そのため、人事制度を構築する際には、事業目的・事業戦略・人材戦略を考慮する必要があります。これらをなおざりにしたままでは、いくら人事制度を構築したとしても得られる効果は期待を下回ることになります。

 

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タイトル下の写真はhelpsgによるPixabayからの画像です。